(京郷新聞 韓国語 2017/09/15)

東京経済大学教授ソ・ギョンシク(徐京植)

今年の末で執権満5年を迎える安倍晋三政権の『右向け右疾走』はもう無感覚になるほど慣れたニュースになってしまった。『第2の敗戦』と呼ばれた東日本大震災と福島原発事故で日本社会が漂流していた2012年末、『日本を、取り戻す。』というスローガンの中に登場した安倍は、経済を安着させる一方で『戦争可能な普通の国』づくりを推進してきた。武器輸出3原則の廃棄、集団自衛権の法制化、『共謀罪』法案の制定が次から次へ行われれ、『戦後の平和主義体制』は形がわからないほどになった。安倍政権の3年前である2009年、日本民主党政権が『東アジア共同体構想』を出したことから見ると『急変針』だが、1990年代中盤以降、右翼の進撃が本格化したことを勘案すれば急変針はむしろ民主党側であったのだろうか。

『在日朝鮮人』である東京経済大学教授ソ・ギョンシク(徐京植)(66)は、日本にいくらも残っていない『広野の声』の一つだ。彼は最近韓国で出版した〈再び、日本を考える〉で『リベラル』と称される日本進歩陣営の責任を辛辣に問うた。ソ・ギョンシクは平和主義を標榜しながらも天皇制と米日安保条約を容認し、東アジアの平和を取り上げながらも植民地の責任問題に対する認識は貧弱なリベラルの『二律背反』あるいは『曖昧さ』が右翼の台頭を防ぐことに失敗したと診断する

去る10日、ソウル市内のホテルで訪韓中であるソ・ギョンシクに会った。彼は「安倍政権5年の日本は全体主義、ファシズム化が急速に進められてきた期間」としながら「このような流れを放置すれば東アジアに武力紛争のような破局が起きる可能性もある」という

日本国内の進歩陣営に期待し難いとしながら「日本を牽制して更生させる主体は周辺国だけであり、特に韓国が批判してブレーキをかけなければならない」ともいう。

今の日本を『ファシズム化』と見る彼の診断は疑問の余地があるが、日本国内の少数者として生きてきたソ・ギョンシクの感覚は坑内の有毒ガスを知らせる『鉱山のカナリア』のように鋭敏で、鋭かった

■国民の意思反映する政治主体がない

-安倍晋三総理が執権して今年の末で5年になるが、その間の最も大きな変化は何か。

「一言で全体主義、ファシズム化が急速に進行している。今の段階をファシズムと規定するかは論議があるだろうが、方向は明らかだ。3・11東日本大震災を契機にファシズム化を展望した文を書いたことがあるが、不幸にも予測の通り行くようだ。」

-東日本大震災がファシズムを呼んだという話なのか。

「国家的な災難を迎え、国民的団結が必要だとし、『日本がんばれ』というスローガンが響きわたった。安倍総理が東京オリンピック誘致の演説で『原発事故は完全に統制されている』と嘘をついても日本人たちは支持した。強力な指導者が雰囲気を切り替えることを願うためだ。その一方で、在日朝鮮人など外部者を排斥している。1923年の関東大震災後に治安維持法が制定されたし、軍国主義に突入したが、当時と類似の流れが見られる。」

日本では去る6月に国会を通過した『組織犯罪処罰法』改正案が大きな論議を呼んだ。『共謀罪』と称されるこの法は、テロなど重大組織犯罪の場合、事前謀議だけでも処罰することができるようにしている。反体制人物の弾圧に悪用された軍国主義時代の『治安維持法』の復活という批判が激しく起こった。

-公営放送NHKに右翼作家が経営委員として委嘱されるなどマスコミ統制も強化されたという指摘が多かったが、マスコミが実際に萎縮したと思うか。

「萎縮というよりは知っていて追従する感じがする。韓国KBSは記者たちが抵抗もするが、日本はそのような動きがない。真実を報道して権力に抵抗する基本態度さえ失われたのではないかと思うほど深刻だ。」

‐日本の平和主義を支えてきた労組も抵抗性が弱まったようだ。

「冷戦解体期である1990年代に入り、労組が協力主義路線を標榜した『連合(日本労働組合総連合会)』に吸収される。日教祖(日本教職員労働組合)、国鉄労組が社会党の大きな基盤であったが、国鉄はJRに民営化されて弱まったし、日教祖も組織率が80%台から20%以下に落ちた。野党である民進党の基盤である電力労組は原子力発電所の再稼働に賛成している。『安倍総理や自民党が悪い』という次元を越え、内面まで全体主義が浸透している。鹿児島県で川内原子力発電所稼動を防ぐとして出馬した政治家が当選後に言葉を変えた。このような形とか政治虚無主義が蔓延し、政権が自分勝手にする状況になった。」

-2012年夏には東京で17万人が集まって脱原発集会をするほど雰囲気が高まったこともあった。

「今でも世論調査をすれば半分程度は原子力発電所再稼働に反対する意見が出てくるが、これを反映する政治主体がないというのが問題だ。」

ソ・ギョンシクは『復興』というスローガンが持つ『不穏性』に注目する。

「関東大震災の時も『復興』風が吹いたし、その裏舞台で社会主義者、朝鮮人が弾圧された。敗戦後にも『復興』スローガンの下、戦争責任を問う努力は(全国民が反省しようという)『1億総懺悔』論理で適当に終わらてしまった。福島原発事故の責任を厳重に問うことを主張する人達は『力を集めなければならない時期に何の話か』と『非国民』扱いを受ける。その上、安倍政権は原発輸出までしている。」

-ある日本人に『放射能汚染』問題を取り出すと『日本人たちの間でこうした話をしたことがない』と言うので驚いたことがある。なぜかしてはならないという『空気』が社会を支配しているようだ。

「『空気を読む』ということが彼らの特徴だ。話す前に自己検閲と“自粛”する。『これは違わないか』と言われれば“間の悪い”人になってしまう。幼い時からこのような空気を呼吸しながら育つ。放射能だけでなく天皇制も同様だ。軍事独裁政権のように武力で威嚇されて話せないのではない。」

■日本進歩、決定的局面には良くない方向に行く

ソ・ギョンシクは、日本が1990年代中盤以降、『反動期』に入っており、このような退行を防ぐことが出来なかったリベラルの責任が大きいと見る。それによると、リベラルは戦争と植民地支配の責任を徹底的に掘り下げることは避けながら、民主主義者を自任する『二律背反性』を見せている。このような性格が2015年の『韓日慰安婦合意』に対する肯定につながっていると見る。

-リベラル読者層が多い朝日・毎日・東京新聞、月刊誌『世界』の購読者が非常に減ったという。知性界の風景もすごく変わったようだ

「朝日新聞と『世界』は戦後民主主義を代表するマスコミだ。だが、朝日新聞は民主主義を支持するとしながらも、天皇制を容認し、米日安保条約を肯定する“曖昧模糊”性を見せてきており、1989年に昭和天皇が逝去した時、このような属性を克明に表わした(当時『アメリカが天皇を免責したことは妥当だった』という社説を載せた)日本リベラルの曖昧さと同じように決定的な局面では良くない方向に行く。安倍政権が北朝鮮に対して圧迫一辺倒に出ているが、批判する論調もほとんど見えない。」

-赤軍派のような学生運動の左傾化が進歩運動に悪影響を及ぼしたりもしたようだ。思想スペクトルの左端が極端主義に流れて壊滅し、一緒にリベラルの影響力も弱くなったようだ。

「同意する。だが、西ドイツにも当時赤軍派があったし、学生運動の左傾化が世界的に異例的であるのではなかった。極端まで行ったとしても忍耐強く省察して新たな方向を定めるのではなく、それ自体を回避して背を向けてしまうのが日本の特徴だ。」

-一種の投降主義なのか。

「投降したのなら屈辱感を感じなければならず、その屈辱感を思想・文学的に省察して方向を探すべきだが、そのまま『思考停止』になってしまった。1970年代の全共闘(全国学生共闘会議)時代が過ぎて日本は世界2位の富国になった。学生運動をしていた彼らが『企業戦士』になった。家も自家用車もでき、子供を大学に送り、『投降して良かった』と考える。ただし、理想主義を夢見た過去は放棄したくないから曖昧な態度になるのだ。好人でも全体として見れば保守主義者だ。そのような彼らが東京電力で、連合で働いている。

■日本を更生させる主体は韓国

ソ・ギョンシクは、韓国のロウソク革命に対して日本社会の視線はそれほど好意的でないと言う。

パク・クネ(朴槿恵)弾劾をめぐり一部では『選挙で選出された大統領をデモで弾劾する民主主義が未熟な国』という批判も出ている。

-なぜそのような批判が出てくるのか。

日本人たちがそのような意識を持つのは天皇制のせいだ。君主制が維持されているので『私は貴族で、お前らは平民』という考え方が依然としてある。1960年代には『天皇制廃止』の主張をする知識人がいたが、今はリベラル論客が天皇主義者を自任する動きまである。進歩勢力さえ『臣民化』されているのだ。

-韓日慰安婦合意に対して日本のリベラルは『現実の環境が難しいだけに白紙化は望ましくなく、合意したことを補完・発展させよう』という。

日本リベラルの問題は、朝鮮人、沖縄人など少数者を先頭に押し立てながら、自分たちは後から見守っている態度だ。彼らは『日本がドイツのような自己変革は出来ないから、韓国人が率先して戦いなさい』という。『日本の自己変革』という自らが解決する課題に背を向けている。慰安婦合意の本質は『お金与えるから口を閉じなさい』ということだ。真の合意ならば教科書にも載せられ、おばあさんも恐れることなく日本に行って話すことができなければならない。日本人たちは『いつまで謝罪を続けなければならないのか』というが、謝罪は被害者が納得するまでするんだ。

1990年代中盤以降、日本が反動期に入ったという彼の診断には補足説明が必要だ。2009年に執権した民主党政権が『東アジア共同体』構想を出し、韓日併合100年である2010年に『植民地支配の強制性』を認める総理談話を発表するなど、東アジアの平和を指向する一定の流れが安倍政権以前まで続いたことも事実であるためだ。だが、中国との尖閣諸島紛争、北朝鮮の日本人拉致事実確認、北朝鮮の核・ミサイル危機など東北アジアの葛藤の高まりで流れが途絶え、東日本大震災の衝撃が加わり、日本の『内向化』が急速に進んだ。

‐日本内でこのような話をする機会が減っているか。

「雑誌の寄稿請託もほとんど入らない。孤立感も感じる。出版界も最近は『嫌韓論』や『日本賛美』の類がよく売れる。日本はこのように立派な国とか、太平洋戦争はアジア解放戦争であったという主張などを含んだ本だ。」

-韓国では日本旅行がブームとなって日本料理文化も広がっている。日本に就職しようとする青年たちも増えている。

「悪いことではない。ただし、それと日本政府を肯定するのは違う。日本が東アジアの平和の最大の危険要因になっているという点は知っておかなければならない。

-朝鮮学校の無償化教育や在日同胞の地方参政権は期待できない状況なのか。

「期待できない。今年、小池百合子東京都知事が関東大震災虐殺追悼文を送らなかったのは前例のないことだ。政治家たちは『韓国バッシング』が得になるという点を悟った。権力を維持するために在日朝鮮人を内部の他者にして弾圧するのだ。しかも、小池が選出された都知事選の時、『ヘイトスピーチ』(憎悪発言)を日常的に行う在特会(在日特権を許さない市民の会)代表が出馬して11万票を得た。首都圏の在日朝鮮人の人口より多い得票数だ。」

‐日本の歩みに対してどんなシナリオを念頭に置いているか。

「破局的な事態に行く可能性がある。東アジア武力紛争のようなことだ。全面戦争になるのか局地戦になるのか分からないが。アメリカが出れば日本は最優先について行くので、阿部政権は準備をすべて済ました。日本国民の大多数は平和が好きだが、自分たちの安全だけ守られれば良いと考えるので防ぎそうにない。」

-外から見る日本人に対する印象と全く違うようだ。

「一人一人は好人が多くて平和主義者だ。だが、社会全体はいくらでも全体主義化することができる。韓国人が『旅行に行ってみると秩序もよく守って通りもきれいで日本人たち良い』と感じるかもしれない。だが、ナチス時代にも通りはきれいだった。ヒトラーが浮浪者、ジプシーみな清掃してしまったので。

-誰が日本を牽制することができるだろうか。

日本を牽制して更生させる主体は周辺国だけだ。結局、韓国が批判してブレーキをかけなければならない。私の批判があまりにも厳しいと感じるかも知れないが、そのように考えること自体が危険と見る。ムン・ジェイン(文在寅)政府も難関が多いが、慰安婦の再交渉をして、過去の問題も積極的に取り上げなければならない。」(機械翻訳 若干修正)