高校無償化制度を担当 前川喜平前文科次官に聞く
(東京新聞 2017/08/14)

朝鮮学校も対象当然と思っていた
募る自責 司法で救済を

 加計学園の獣医学部新設問題で「行政がゆがめられた」と告発して注目を浴びた前川喜平・前文部科学次官(六二)は、高校の授業料無償化制度の担当官だった前川氏らは朝鮮学校にも適用する方向で動いたが、第二次安倍政権は拉致問題などを理由に除外した。朝鮮学校を外した国の処分の是非が争われている訴訟では最近、広島、大阪両地裁で正反対の判断が示された。前川氏は「今更どの面下げてという話だが、せめて司法で救済してほしい」と訴える。(佐藤大)

◇他の外国人学校と平等に

 「朝鮮学校は当然、無償化の対象になるはずでした。不指定となり、極めて無念な思いをしました」。前川氏は四日、東京都内で「こちら特報部」の取材に応じ、朝鮮学校が除外された経緯を語り始めた

 高校無償化とは、公立高校の生徒からは授業料を徴収せず、私立高校などの生徒には公立高校の授業料相当分(年十一万八千八百円)を「就学支援金」として助成する制度。二〇〇九年に政権を握った民主党がマニフェスト(政権公約)に掲げた看板政策である。

 前川氏は、初等中等教育局担当の大臣官房審議官として制度設計に当初から関わった。朝鮮学校への無償化適用を前提に、京都、大阪、神戸の朝鮮学校にも視察に訪れた。「真面目に勉強しているなという印象だった。朝鮮語を使って勉強している以外、日本の高校とほとんど変わらない。ただ、財政的には非常に厳しいと聞いた」

 ところが、民主党内の足並みが乱れる。中井洽(ひろし)拉致担当相が川端達夫文科相に朝鮮学校の除外を要請していたことが一〇年二月に判明。鳩山由紀夫首相の発言も揺れた。

 結局、朝鮮学校は一〇年四月の制度スタート時には対象とならず、適用するかどうかは「第三者機関を設けて審査、判断する」と先送りされた。文科省は同月末、無償化の対象となる外国人学校三十一校を公表したが、その内訳はインターナショナルスクールやブラジル、韓国、英国など。とはいえ、文科省内では朝鮮学校を追加する前提で検討が進められていたという。「他の外国人学校と比べ、朝鮮学校は日本の社会で暮らす人たちを育てるという意味合いが強い」

 朝鮮学校の生徒たちは同年七月、無償化適用を求める十一万人分以上の署名を文科省に提出した。署名簿を受け取った前川氏は「適用可否がはっきりしない状態が続き、生徒たちを不安な気持ちにさせて申し訳ない。生徒たちの力でこんなに多くの署名を集めたことを評価したい。日本人にも理解が広がっているのは良いこと。生徒たちの気持ちと署名は、必ず文科大臣に伝える」と応じた。

 同年八月末、第三者の専門家会議が公表した報告書は、適用の可否について結論は出さなかったものの、「個々の具体的な教育内容は基準としない」「外交上の配慮によって判断するのではなく、教育上の観点から判断すべきだ」との基準を提示した。

 前川氏は「朝鮮学校の教育内容を問題視する声もあったが、他の外国人学校と平等に扱うぺきだということになった」と振り返る。

 文科省は同年十一月五日、専門家会議の報告書を踏襲した適用基準を発表し、全国の朝鮮学校が申請を始めた。この時点では年内にも適用が決まるはずだった。

 朝鮮学校への無償化適用の流れを一変させたのが、北朝鮮による韓国・延坪島(ヨンピヨンド)砲撃事件だった。適用基準発表直後の十一月二十三日に発生し、民間人を含む四人が死亡した。

 菅直人首相は発生翌日、朝鮮学校の審査手続きの停止を指示した。事件を受けて「静謐(せいひつ)な環境で審査ができない」との理由だったが、前川氏は「専門家たちは静謐な環境で十分審査できた。砲撃事件は許されることではないが、事件があったから審査をストップというのはやはりおかしかった」と指摘する。

 二年八月、退任を控えた菅首相が一転して手続きの再開を促した。一二年十月に就任した田中真紀子文科相は「こんな差別を許すべきではない」と適用に前向きだった。しかし、田中文科相が一時三大学の新設を不認可とする問題が起き、省内が混乱。同年末に民主党政権は終わった。

 前川氏は、民主党政権時の議論をこう総括する。

 「拉致被害者への配慮から、民主党内でも朝鮮学校を含めることに対する反対派の圧力が強くあった。それが閣内不一致にまで及んでいた。何度かチャンスがあったのに、政治の判断が二転三転し、実現に至らなかった」

◇拉致問題 安倍政権は門閉ざす

 第二次安倍政権の下村博文文科相は就任早々、拉致問題で進展がなく、朝鮮学校の人事や財政に在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)の影響が及んでいるなどとして無償化から排除する方針を明言。一三年二月、無償化制度の施行規則から朝鮮学校の項目を削除し、申請していた朝鮮学校十校を不指定とした。

 前川氏は一二年一月から官房長に就き、直接担当する立場ではなくなっていたが、署名を受け取った生徒らの顔が何度も浮かんだ

「政治の世界で決めたこととはいえ、いくら何でも乱暴だと思った。これでは『門前払い』とも言えない。門が開いていて入ってきた人を押し出して、門を閉めちゃったんだから」

 朝鮮学校の生徒たちは、朝鮮学校への無償化適用を訴える「金曜行動」を一三年五月から文科省前で続ける。生徒たちの声を聞くたびに前川氏の胸は痛んだ。

 一六年六月には事務方トップの次官に昇任したが、無償化問題と向き合う間もなく、「天下り」あっせん問題で今年一月に辞任を余儀なくされた

 辞任する際、全職員に送ったメールには「少数者の尊厳が重んじられ、多様性が尊重される社会を目指してほしい」とつづった。

「多様性を含み込むような教育が行われていないということはずっと気になってきた。逆に多様性を排除するような、少数者を排除するような偏狭で不寛容な考え方が政治の世界にあった。それが教育現場に及ばないように努力したつもりだが、力が及ばなかった」

◇生徒、今も適用訴え…胸痛む

 朝鮮学校の生徒らは一三年一月以降、愛知、大阪、広島、福岡、東京の全国五カ所で国を相手に法廷闘争に挑む。前川氏はその行方が気にかかっている。

 七月十九日の広島地裁判決は、広島朝鮮学園(広島市)が朝鮮総連の強力な指導下にあるとした過去の民事訴訟判決や公安調査庁の報告をもとに、国の処分は裁量の範囲内で適法と結論付けた。一方、同二十八日の大阪地裁判決は、国の処分は違法だとして取り消し、無償化を命じた。

 前川氏は「私から見れば大阪地裁判決が妥当だ」と強調する。「彼らが学ぶ民族教育に北朝鮮とつながる部分かあることは事実だが、その民族教育というものは、日本で生活し、日本の社会の中で、日本人と一緒に社会をつくっていくための民族教育だ」

 三番目の地裁判決として九月十三日に東京地裁で判決が言い渡される。同様の構図で争うこの訴訟も「国が勝ったらおかしい」と言い切る。

 「高校無償化はいい制度だったと思うし、朝鮮学校を入れるということに光を見ていた。国が朝鮮学校を対象外としたのは理不尽で不条理。これを認めるとしたら法治国家ではない」

tokyo20170814

【デスクメモ】
 在特会幹部らが京都朝鮮学校の授業や徳島県教組の業務を街宣活動で妨害した事件の民事裁判では、ヘイトスピーチが人種差別と認定され、高額賠償を命じた判決が確定した。朝鮮学校を無償化から外す国のやり方は「上からのヘイト」だ。ヘイトと向き合う司法の流れを加速させたい。(圭)2017・8・14


なに善人ぶっているんですかね。


(産経新聞 201708/15)

 加計学園問題で「行政がゆがめられた」と告発した文部科学省前事務次官の前川喜平氏が、14日付の東京新聞朝刊に掲載されたインタビュー記事で、朝鮮学校への高校授業料無償化の適用について、「今更どの面下げてという話だが、せめて司法で救済してほしい」などと述べた。前川氏は現職当時、無償化に関する業務を担当していた。この問題をめぐっては、適用除外は違法だとする朝鮮学校側と国との間で各地で訴訟となっており、省内では戸惑いの声が聞かれたほか、識者から「辞めてすぐに言うのは社会常識に反する」との指摘も出ている。

 この記事で前川氏は、朝鮮学校が無償化の適用外とされた経緯について語り、平成22年4月の制度導入当初、文科省内で無償化の対象に朝鮮学校を追加する前提で検討が進められていたことを明かした。さらに、同省が25年2月、朝鮮学校を無償化の対象外とする省令改正を行い、10校に不指定を通知したことを「政治の世界で決めたこととはいえ、いくら何でも乱暴だと思った」と批判。適用除外を違法だとした大阪地裁判決を「妥当だ」と評した。

 無償化をめぐっては広島地裁が先月、国が適用対象外としたことを適法と認め、学校側が控訴している。大阪地裁では適用対象外を違法とする判決が出ており、国が控訴中。ほかの地裁などでも同種の訴訟が起こされている。

 前川氏の批判に対し、現職の職員からは「係争中の案件について、踏み込んだ発言をするのはやり過ぎだ。古巣のことを何も考えていないのだろう」と戸惑う声が聞かれた。

 元通産官僚の評論家、八幡和郎氏は「政治・外交的な理由での不支給を不当などという一方で、多様性が尊重される社会という自分の価値観で政治判断をしており矛盾している」と指摘。「政策面で対立して辞めたのではないのに、現職のときは我慢していたと辞めてすぐに言うのは社会常識に反する」と話す

 文科省は「退職した方についてコメントするのは差し控えたい」としている。

 また、東京新聞の記事では、朝鮮学校の生徒が平成22年7月に無償化適用を求める署名を文科省に提出した際、対応した前川氏が「多くの署名を集めたことを評価したい。日本人にも理解が広がっているのは良いこと」と応じたとしている

 しかし、前川氏はこの発言を報じた当時の朝鮮新報の記事について尋ねた翌月の産経新聞の取材に対し、「言った記憶がない」と否定している。このときの前川氏と生徒らとの面会は、日本の報道陣をシャットアウトして行われていた。


「2015年9月18日、国会前の安保法制反対デモに参加していた」と今月2日の講演で発言したと産経新聞が昨日報じましたが、「以前から安倍政権のやり方を批判していた」という体にするための嘘のような気がします・・・。

仮に行っていたとしても「政権に阿る官僚」としての「偵察」であり「参加」ではないんじゃないのかな。