ベトナム漁船 中国が襲撃
(読売新聞 2017/08/05)

魚奪い機材破壊「まるで強盗」
南シナ海 増加

 南シナ海で、中国がベトナム漁船を力で排除する動きを活発化させている。6月には両国が領有を主張するパラセル(西沙)諸島海域で、中国船に襲われたベトナム漁船が沈没。漁民への暴行や捕獲した魚の強奪も相次ぎ、ベトナムの漁村では反中感情が高まっている。(ベトナム中部クアンガイ省で 吉田健一、写真も)

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 「乗り移ってきた中国人が船を壊して沈めた。僚船が近くにいなければ死んでいた。やつらは強盗と同じだ」

 クアンガイ省の漁村ピンチャウ。パラセル海域で操業中に襲われたファム・バン・マンさん(43)が怒りをぶちまけた。

 マンさんによると、6月18日朝、高速艇2隻に分乗した軍服姿の中国人が船に乗り込んできた。乗っていた漁民8人は拳銃で脅され、少しでも動くと鉄棒で殴られたり、電流が流れる棒を押しつけられたりしたという。中国人は船を約3時間占拠し、機器や設備を破壊。ベトナム国旗を掲げたポールを折って海に捨て、取ったばかりの魚も奪っていった。排水設備を壊されたことで船内に水がたまり、船は程なく沈んだ。中国人が去った方向には中国公船が停泊していた

 強奪には中国漁民がかかわるケースもあるようだ。昨年暮れ近く、中国船に襲われた同省リーソン島の漁民ブイ・ダイさん(66)は「高速艇が来て、両手を頭の後ろで組んだままひざまずかされた。続いて中国漁船が接舷し、漁民が船の燃料や魚を奪っていった」と証言する。

 ピンチャウ漁業組合のグエン・タイン・フン組合長(62)は「襲撃は再び増えている」と話す。今年上半期、同組合所属の漁船が中国船に襲われた事案は14件。すでに昨年1年間の18件に迫る勢いだ。両国首脳は2015年、南シナ海の領有権問題で対立激化を避けることで合意し、昨年は襲撃も減少傾向にあった。今年に入り襲撃が増加した背景には、南シナ海の軍事拠点化を進める中国が、ベトナム漁船の排除を徹底する方針を強めた可能性がある

 ベトナム国営紙関係者によると、7月未にもベトナム漁船が中国船とみられる船に体当たりされ、大破する事案があった。

 ベトナムの漁民たちは「我々の伝統的な漁場を奪ったのは中国だ」と口をそろえる。ただ、ベトナムの海上保安能力は中国に圧倒されている。漁民によると、襲撃事件が増えてきた今日でも、パラセル海域でベトナム公船を見かけることはまずないという

越政府の採掘 中国どう喝で停止

 中越関係は最近、南シナ海の領有権問題を巡り再び緊張を増している。

 特に「中国側の強い不満の表れ」(越国営紙記者)と受け止められているのが、今年6月、訪越した中国軍制服組トップの范長竜中央軍事委員会副主席が日程を突如切り上げて帰国したことだ。

 ベトナムは同月、領有権の主張が中国と重なるベトナム南東沖の海域で天然資源の掘削に着手した。英BBCによると、ベトナム政府はこの約1か月後、掘削作業を行っていたスペイン系企業に対し、作業の停止と掘削船の離脱を命じた。中国が、掘削作業をやめなければスプラトリー(南沙)諸島のベトナム軍基地を攻撃すると警告したためという。

 中国は南シナ海で、人工島造成など軍事拠点化を着実に進め、ベトナムはこれに懸念を深めている。中国は今秋に共産党大会を控え、国内外での摩擦を避け、「安定」を最優先している。ベトナムによる天然資源の掘削は、こうした事情を酌んで中国側に揺さぶりをかける狙いがあったのではないか、との見方もある。

 ただ、南シナ海問題で弱腰の対応は、中国国内で習近平国家主席への批判に直結しかねない。中越関係に詳しい中国人研究者は本紙に対し、「中国が党大会前のこの時期、『攻撃も辞さない』とまで強烈に反発するのはベトナムの想定を超えていたのではないか」と話し、ベトナムが中国の出方を読み違えたとの見方を示した。