朝鮮学校補助 16都府県が停止
(朝日新聞 2017/08/06)

今年度、本社調査 北朝鮮動向や文科省通知受け

 朝鮮学校への自治体の補助金について、朝日新聞が調べたところ、今年度は16都府県が交付をやめていることが分かった。10年前は学校がある28都道府県で交付していたが次第に減少。最近停止した自治体は理由として、北朝鮮の動向や、「透明性のある執行」を求めた昨年3月の文部科学省通知を挙げている。

 28都道府県へのアンケートや文科省によると、2006年度や07年度は28都道府県で補助金を交付していたが、徐々に減り、今年度の予算計上は12道府県。昨年度の交付実績は計約1億2200万円で、06年度の計約6億2400万円から大幅に減った

 きっかけの一つは、文科省が昨年3月、都道府県の判断で交付する補助金に関して出した通知だ。「政府としては北朝鮮と密接な関係を有する団体である朝鮮総連(在日本朝鮮人総連合会)が朝鮮学校の教育内容や人事、財政に影響を及ぼしていると認識している」とし、「適正で透明性のある執行」を要請。事実上、交付の「再考」を求める内容とも受け止められた。

 昨年度から交付をやめた5県のうち、3県は通知を踏まえて判断したとしている茨城県は昨年度、1981年度から毎年続けてきた茨城朝鮮初中高級学校への補助金交付を初めて見送った。もともと補助金160万2千円を予算計上していたが、文科省通知を踏まえて学校に聞き取り、「学校と朝鮮総連は関係がある」という趣旨の発言があったことなどから、交付の見送りを決めたという。

 和歌山県も通知を受けて和歌山朝鮮初中級学校に聞き取りをし、16年度に予定していた235万2千円の交付をやめ、17年度も計上を見送った。県は「県民に説明がつきにくい税金の使い方はできない。また昨今の北朝鮮の動向に照らし、決断した」と話した。

 福井など2県は「休校状態となったため」などを理由とした。

 通知の前からやめている埼玉県は「拉致問題が解決されていない」、大阪府は「特定の政治団体と一線を画すという交付要件が満たされている確証が得られない」としている。

 補助金の予算計上を継続しているのは12道府県。兵庫県は「外国人生徒らの教育機会を確保することは重要」とし、17年度以降も継続する方針だ。

 愛知県は「国際的・政治的な問題と、日本で生まれ、日本で育った朝鮮学校の子どもたちに対する補助金とは分けて考えている」と回答した。

 補助金に対する司法の判断は一律ではない。大阪府と大阪市の補助金不支給決定をめぐっては、大阪地裁が今年1月、「行政の裁量の範囲内」として学校側の請求を棄却。一方、拉致被害者支援団体が兵庫県と神戸市を相手取り、補助金の取り消しなどを求めた訴訟では、交付は違法ではないと認めた判決が15年に確定している。(土居新平、岡本玄)

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視/点 政治・外交と教育 分けて

 朝鮮学校に対する補助金は、保護者の負担を減らして子どもの学ぶ権利を保障しようと、地方自治体がそれぞれの判断で1970年代から設けてきたものだ。

 打ち切りの動きが始まったのは2010年ごろ。民主党政権が高校授業料無償化制度を導入した際、北朝鮮による韓国・大建坪島(テヨンピヨンド)砲撃を受けて朝鮮学校への適用を先送りしたことから、補助金についても東京都や大阪府が交付を停止した

 文科省は昨年3月、補助金の「再考」を求める通知を自治体に出したが、同年1月に北朝鮮の核実験があり、自民党の拉致問題対策本部が補助金停止を自治体に求めるよう文科省に要請していた。

 高校無償化制度の朝鮮学校除外をめぐる裁判で7月19日の広島地裁判決は不支給を適法とした。一方、7月28日の大阪地裁判決は、拉致問題を理由とした朝鮮学校の除外について「教育の機会均等と無関係な外交的、政治的意見に基づくもので違法、無効」と判断している。

 北朝鮮が核、ミサイルの開発を強行していることは強く非難されるべきだ。ただ、日本で生まれ育ち、地域社会の一員として生活する在日コリアンの子どもたちの教育に不利益を及ぼすことが、北朝鮮の態度を変えさせるために有効なのか。政治・外交問題と、子どもたちに対する教育の問題とは、分けて考えるべきだろう。(編集委員・北野隆一)

■朝鮮学校がある都道府県の補助金交付状況

今年度計上 北海道、福島、長野、岐阜、静岡、愛知、滋賀、
京都、兵庫、岡山、愛媛、福岡
計上せず
(休校中の福井、奈良を除く)
通知後 茨城、栃木、群馬 、三重、和歌山
通知前 宮城、埼玉、千葉、東京、神奈川、
新潟、大阪、広島、山口


市区の状況も調べてほしいですね。