朝鮮学校の無償化命令 大阪地裁 国の判断「裁量権逸脱」
(朝日新聞 2017/07/29)
 大阪朝鮮高級学校(大阪府東大阪市)を高校授業料無償化制度の適用対象から外した国の処分の是非が争われた訴訟で、大阪地裁(西田隆裕裁判長)は28日、処分は違法だとして取り消し、無償化を命じた。

「教育の機会均等の確保とは無関係な政治的意見に基づいており、裁量権を逸脱している」と認定した。北朝鮮や朝鮮総連との関係を理由に、朝鮮学校を除外してきた安倍政権の姿勢を厳しく問う判断となった。

 高校無償化法は民主党政権下の2010年4月に施行。大阪朝鮮高級学校も同年11月に適用を申請したが結論が出ぬまま、12年12月に自民党の第2次安倍政権が発足。同月、文部科学相に就任した下村博文氏は「拉致問題の進展がなく、朝鮮総連と密接な関係にある」と述べ、2カ月後に朝鮮学校を制度から外した。

 訴訟で国側は、北朝鮮との密接な関係を指摘した報道などを根拠に、学校が朝鮮総連による「不当な支配」を受けていると主張。無償化の適否を判断する基準である「法令に基づく適正な運営」の確証が得られない、としていた。

 判決は、適正運営の判断は財務状態などで客観的に認定するべきで、「不当な支配」の判断は文科相の裁量に委ねるべきではないとした。裁量を許せば、逆に行政権力による教育への過度な介入の容認につながると懸念。戦前・戦中の軍国主義的な教育への反省からできた教育基本法の趣旨に反するとの認識を示した。

 その上で、不当な支配の有無を検討。国側が示した報道内容が、合理的根拠に基づくと立証されていないと指摘。学校への朝鮮総連の一定の関与は認定したが、歴史的事情を考慮すれば不適正とは言えず、不当な支配で自主性のない教育を余儀なくされているわけではない、と結論づけた。(大貫聡子)

 控訴の意向にじませる 菅官房長官

 大阪地裁の判決で、第2次安倍政権初期から継続してきた朝鮮学校への対応を根底から問われた政府。文科省高校修学支援室は「主張が認められなかった」としつつ、「広島地裁の判決では国側の主張が認められたところであり、判決の内容を精査した上で関係省庁と協議し、対応を検討する」と発表した。

 同省幹部は「ここまで極端な立論が今後の上級審でも認められることはないのではないか」との見方を示した。判決後、菅義偉官房長官は記者会見で控訴するか問われ「広島地裁判決では国の主張が認められている。そうしたことを基に対応していく」と述べ、控訴の意向をにじませた。

■朝鮮学校無償化訴訟の争点と判断
大阪地裁(7月28日) 広島地裁(7月19日)
朝鮮学校を無償化制度の対象から除外したこと
政治的意見に基づいた判断で、文科相の裁量の範囲を逸脱しており違法、無効 文科相の裁量の範囲内。学校が無償化の要件に該当しないことが理由で、適法
学校の運営は適切か
理事会が開催され、財産目録、財務諸表が作成されている。法令違反による行政処分も受けておらず適切 北朝鮮や朝鮮総連による影響力が否定できず、就学支援金を支給しても適切に授業料にあてられるか懸念がある
朝鮮総連による学校の不当な支配はあるか
教育に一定程度関与しているが、歴史的事情に照らせば適正を欠くとは認められない。国が指摘する報道も、合理的根拠に基づく立証はない 一部報道や過去の民事訴訟事件の判決などから朝鮮総連との密接な関係が疑われる。既に改善されているという報道もない

■朝鮮学校無償化訴訟 各地の状況
広島地裁     7月19日判決
 広島朝鮮高級学校 学校側敗訴
大阪地裁     7月28日判決
 大阪朝鮮高級学校 学校側勝訴
東京地裁     9月13日判決予定 
 東京朝鮮中高級学校
名古屋地裁    審理中
 愛知朝鮮中高級学校 
福岡地裁小倉支部 審理中 
 九州朝鮮中高級学校 


生徒「存在認められた」 朝鮮学校「無念晴らす吉報」
(朝日新聞 2017/07/29)

 高校授業料無償化の対象から朝鮮学校を外した国の措置について、大阪地裁は28日、違法とする判決を言い渡した。北朝鮮と日本との関係が緊張を増す中、「教育の機会均等」の原則を重んじた司法判断を学校関係者らは喜んだ。

 「判決は、行政の不当な差別行為を司法が取り消す画期的なものだ」

 閉廷後、大阪朝鮮高級学校を運営する大阪朝鮮学園の玄英昭(ヒョンヨンソ)理事長は大阪市内で会見し、手にした声明文を一気に読み上げた。

 学園は無償化適用を求め2013年1月に提訴した。同校は、全国高校ラグビー大会常連の強豪としても知られ、日本代表となる選手も輩出してきた。玄理事長は自ら出廷し、民族教育の重要性とともに、日本や地域社会における生徒・卒業生らの活躍ぶりを強調。他の学校や生徒と分け隔てしないよう訴えてきた。

 玄理事長は「悔しさを胸に巣立っていった生徒たちの無念を晴らす何よりの吉報だ」と喜びを込めた。

 28日夜には大阪市東成区で報告集会が開かれ、判決内容は保護者らにも伝えられた。壇上に上がった大阪朝鮮高級学校2年の女子生徒は「判決を聞き、自分たちの存在が認められ、この社会で生きていていいと言われた気がした」と声を詰まらせながら語った。

[カギ]高校無償化

 教育の機会均等に寄与することを目的に2010年4月、高校無償化法が施行された。全日制の公立高校生には授業料(月額9900円)を支給、私立高校生にも同額を支給する。生徒の申請に応じ、国から都道府県を通じて各校に支給される。専修学校の高等課程やインターナショナルスクールも対象に含まれるが、朝鮮学校への適用は見送られている。14年度からは所得制限が加わった。

教育内容時代で変化

朝鮮学校は、日本の敗戦後すぐ、在日朝鮮人の子どもに母国語を教えるため、全国各地にできた「国語講習所」を前身とする。昨年5月時点で、全国に幼稚班と初、中、高級部が66校(休校5校)あり、児童・生徒は6185人。うち高級部がある学校は11校(同l校)で、1389人(文部科学省調べ)だった。

 教育内容は時代を追って変化している。世界人権問題研究センター(京都市)の呉永縞(オヨンホ)・専任研究員によると、1950~60年代には北朝鮮の教科書がそのまま使われたが、その後、教員が加わり教科書を編集するようになった。金正日(キムジョンイル)父子をあがめる内容は依然としてあるが、在日の子どもに合うように、崇拝色を薄めるよう見直しを進めたという。

 授業は朝鮮語で行われ、朝鮮の地理や歴史を学ぶ教科があるものの、カリキュラムは日本の学校に準じる。最近はネイティブによる英語やタブレット端末を使った授業を取り入れている学校もあるという。

 28日の大阪地裁判決は、北朝鮮から各地の朝鮮学校に57年以降、計約460億円の援助があったとする報道を引用し、資金援助を認定。ただ、現在は朝鮮総連などからの寄付は年100万円程度で学校収入に占める割合はわずかにとどまり総連側との関係が不適正とまでいえないと判断した。

 呉さんは「朝鮮学校は『帰国』でも『同化』でもない、定住外国人としていかに生きるかを学ぶ場だ」と話した。

 公的な支援 縮小の傾向

 文部科学省によると、高校授業料の無償化の予算は今年度3668億円。約270万人の生徒が対象となっている。アメリカンスクールや中華学校など外国人学校41校も対象に含まれているが、朝鮮学校は適用対象外となっている。

 無償化とは別に、朝鮮学校への公的な支援では、各自治体が独自に支給する補助金があるが、厳しさを増す北朝鮮との関係などに影響される形で規模は縮小傾向にある。同省によると、朝鮮学校(幼稚園~高校)に補助金を交付した自治体は2015年度は18道府県、l14市区で計3億7千万円。10年度と比べると学校全体の生徒数は5年で2割減にとどまる一方、補助金額は半減した計算になる。


朝鮮学校無償化訴訟判決(要旨)
(朝日新聞 2017/07/29)

 大阪朝鮮高級学校を高校授業料無償化制度の対象にするよう国に命じた、28日の大阪地裁の判決理由の要旨は次の通り。

■事案の概要

 原告の学校法人・大阪朝鮮学園は、大阪朝鮮高級学校について、高校無償化法と同法施行規則の規定に基づき、文部科学大臣に(無償化適用の)指定の申請をした。これに対し、当時の下村博文文科相は同法施行規則の規定を削除した上で、規定を削除したこと及び大阪朝鮮高級学校が国の審査基準(規程)の要件に適合すると認めるに至らなかったとして指定しない処分をした。

 原告は不指定処分の取り消しと指定の義務づけを求めた。主な争点は、①規定の削除の違法性②大阪朝鮮高級学校の審査基準(規程)への適合性である。

■大阪地裁の判断

①規定の削除の違法性

高校無償化法は、国の財政的負担で教育を実施することが、後期中等教育段階での教育の機会均等を確保する見地から妥当だと認められる各種学校の範囲の確定を文部科学省令(高校無償化法施行規則)に委任した。

 にもかかわらず、下村文科相は、後期中等教育段階の教育の機会均等とは無関係な、朝鮮学校に無償化を通用することは北朝鮮との間の拉致問題の解決の妨げになり、国民の理解が得られないという外交的・政治的意見に基づき、朝鮮高級学校を無償化の対象から排除するため、同法施行規則の規定を削除したものと認められる。

 従って、規定の削除は、無償化法による委任の趣旨を逸脱するものとして違法・無効と解すべきである。

②大阪朝鮮高級学校の審査基準(規程)への適合性

 学校法人・大阪朝鮮学園では、私立学校法に基づき、財産目録、財務諸表などが作成されるとともに、理事会なども開催されている。大阪朝鮮高級学校は、2007年4月~11年9月まで、所轄庁である大阪府知事から、教育基本法、学校教育法などの法令に違反することを理由とする行政処分などを受けたことがなかった。従って、大阪朝鮮高級学校については、他に審査基準(規程)の適合性に疑念を生じさせる特段の事情がない限り、適合性が認められるというべきだ。

 国は、朝鮮高級学校が北朝鮮または朝鮮総連と一定の関係を有する旨の報道などを指摘して、就学支援金を生徒の授業料に充当せず、朝鮮総連から「不当な支配」を受けているとの疑念が生ずると主張している。しかし、国の指摘する報道などの存在及びこれに沿う事実をもって、適合性に疑念を生じさせる特段の事情があるということはできない。


2017年04月14日