(毎日新聞 2017/04/04)

 政府は長嶺安政駐韓大使の帰任を決めた。慰安婦を象徴する少女像が韓国・釜山の日本総領事館前に建てられたことを受けて1月に帰国させていたが、きょうソウルに戻す。

 外国公館前への新たな少女像設置は、慰安婦問題を巡る一昨年の日韓合意の精神に反している。外交的な強い不快感を表明するために大使を一時帰国させた判断は理解できるものだった

 釜山の少女像移転のめどは現在も立っていない。だが、帰国期間が長期化することによって外交的なデメリットが大きくなっていた。

 韓国では来月9日に大統領選が行われる。大使不在では次期政権との人脈作りも進まない。

 大統領選は、世論調査の支持率1位である最大野党「共に民主党」の文在寅(ムンジェイン)前代表と、急速に支持を伸ばしている第2野党「国民の党」の安哲秀(アンチョルス)前共同代表による事実上の一騎打ちとなる可能性が高い。

 2人とも日本との接点をほとんど持たず、慰安婦問題を巡る日韓合意を批判している。ただ、繰り上げ選挙で日程の余裕がないこともあって公約発表はこれからだ。

 次期政権の政策作りに携わるブレーンたちに日本の考えを丁寧に説明する必要がある。肩書をとりわけ重視する韓国社会においては、その際に大使の存在が大きな意味を持つ。

 安全保障上の観点からも、いざという時に韓国政府との窓口となる駐韓大使の不在は望ましくない。

 北朝鮮は、今週後半の米中首脳会談に合わせて核実験などの挑発行為をする恐れがある。日韓関係の悪化は、北朝鮮につけ入るすきを与えるだけだ。

 韓国政府も何もしていないわけではない。2月には釜山の自治体に少女像移転を要請し、合意を守る考えを明確に示した。

 以上のことを踏まえれば、やや遅きに失したとはいえ、ここで大使を帰任させる判断は妥当であろう

 慰安婦問題を巡る日韓合意の重要性は変わらない。

 大使帰任を発表した岸田文雄外相が強調したように国際社会との約束であり、日韓両国は合意を守る責任を共有している。誠実な合意履行のために、日韓は協力していかなければならない


(朝日新聞 2017/04/04)

 日本政府を代表する駐韓大使と釜山総領事が、韓国での任地に戻ることになった。岸田文雄外相がきのう、発表した。

 3カ月近くも大使らが隣国にいないという異常事態がやっと解消される。遅きに失したとはいえ、当然の措置である

 韓国はいま、前大統領の朴槿恵(パククネ)氏が弾劾(だんがい)されて座を追われ、次期大統領選が1カ月余り後に迫っている。日韓関係の立て直しを急がねばならない。

 大使らの「一時帰国」は、釜山の日本総領事館前に慰安婦問題を象徴する少女像が立ったことへの対抗措置とされた

 この間、韓国政界では大統領選へ向けた様々な動きが活発化した。きのうは最大野党「共に民主党」の公認候補に、文在寅(ムンジェイン)・前代表が決まった。

 ところが外務省関係者によると、日本は大使が不在のため、有力候補の陣営幹部との人脈づくりなどが遅れた。

 これまで韓国では選挙の後、約2カ月間の政権引き継ぎ期間があったが、今回は違う。現職大統領がいないため、当選者による新政権が即時発足する。

 それだけに、選挙の途中過程からしっかり情報を集め、来月からの新政権との対話に備える必要がある。出遅れを取り戻すよう努めねばならない。

 日韓間には懸案が多くあり、とくに歴史認識問題をめぐってはナショナリズムが高揚しがちだ。その壁を越えて健全な互恵関係を築くには、冷静に現実を見すえる外交が欠かせない。

 その意味で大使らの「一時帰国」は短慮だったと言わざるをえない。像の移転問題の進展を求めてきたが、結果として事態に何の変化もないまま、矛を収めることになった

 帰任する大使らには、2年前の日韓の慰安婦合意の意義を粘り強く韓国に説き、少女像問題の進展につなげてほしい。

 一方、韓国の次期大統領候補者たちも、両国関係を改善させる大局的な意義を、国民にきちんと説くべきである。選挙での人気獲得を狙って対日批判に走るなら、責任ある指導者とはいえない。

 北朝鮮は再び、核実験の兆候ともとれる動きをみせている。トランプ米政権は、北朝鮮への軍事攻撃を排除しない新政策を検討しているとされる。今週開かれる米中首脳会談でも、北朝鮮政策は主要議題となる。

 東アジアの情勢が混沌(こんとん)とするなか、歴史問題に拘泥して外交の選択肢を狭める余裕はない。安倍政権は、韓国の政権移行の時機を逸することなく、日韓関係を再建すべきである


この辺が毎日と朝日の『従韓ライン』の差なのかな(毎日は『従中』では朝日の上を行くかもしれませんが)。